竹内の映画紹介「おくりびと」
2024年08月05日(月)
2008年9月に公開されて、その年の内に配給元の松竹と09年1月からホールでの上映ができるという契約を結びました。そしてまったく予期していなかったことですが、2月にアカデミー賞外国語映画賞を受賞してからが大変でした。上映するたびに会場は一杯の人で埋め尽くされ、動員人数の記録を塗り替えていきました。
主人公はチェリスト、やっと入れた楽団がいきなり解散して失職し、やむなく故郷に戻るという設定が見事です。クラシックの演奏をやっている人ってどんな人だろうって、ある程度イメージが広がります。真面目だろうな、器用で繊細そしてちょっと世間知らずかな…。そのイメージのままを本木雅弘が体現していくところが一番の魅力です。
彼の再就職先は納棺師。湯かんをして清めることは知っていましたが、さらに衣服の着せ替えやメイクを施したうえで納棺するという職業です。死というと不浄なもの、不吉なものとして忌み嫌われがちな常識を覆していきます。心を込めて丁寧に、しかも滞ることなく流れるように行われる死出の旅支度は、芸術家をめざしていた主人公の美意識も手伝って、見事で感動的です。
主人公が、ベテランの佐々木社長(山崎努)から多くのことを学びながら、様々な死や別れと向き合ううちに人間として成長していく物語の構成が見事です。そしてラストで、女と家を出ていった実の父親を自分で納棺したことで、それまで抱えていた恨みやらを乗り越えていくという、実に考えつくされたシナリオです。